こんな障害者のはなし「セックスボランティア」

a2c_sato2004-10-31

おもしろくて1日で読了してしまいました。(って読み終わったのずいぶん前なんだけど・・・)文章が易しいってのもあるけどね。タイトルがドギツイのも気になったところではあったのだが。
セックスボランティア」(河合香織講談社
http://www.esbooks.co.jp/books/detail?accd=31394165
障害者の性についてのノンフィクションです。ガチンコですな。
障害者の本になると、とかく「感動しました」「私もがんばらなければと思いました」とヒロイックな内容&読者の感想になってしまうのですが、この本はタイトルからもわかるように、「障害者神話」を崩してくれます。ヒーローはエッチなことなんか考えないんだよ、なんてね。

竹田芳蔵さんは脳性麻痺で体に障害を持ち、現在72歳。喉に穴が開けられ、酸素ボンベがないと生きていけない体。声も発する事はできず、文字盤を使用するしか意志を伝えられない。それでも、竹田さんは年金をやりくりして年に1回吉原のソープランドへ行く。そして、その時だけは、24時間寝ている時も外さない酸素ボンベを外す。
>2時間の行為の間は、大きな酸素ボンベは邪魔だからだ。
>「いき は くるしい おっぱいに こども のように むしゃぶりつくのが すき」
>死んでしまうリスクもある。
>「そのとき は そのとき せい は いきる こんぽん やめるわけ にはいかない」
この竹田さんのくだりは圧倒されました。彼が風俗に生きはじめたのが50歳のとき。15年間つきあってた彼女が亡くなったのがそのきっかけなのだそうだ。竹田さんと著者とボランティアで、いままで一度も行ったことのなかった墓参りをするシーンは、まるで映画を見ている気分になりました。

第1章はこんな感じで、他にも男性障害者のマスターベーションの介助をする男性や女性、障害者専門の風俗店を開く男性、そこで働く聴覚障害の女の子、知的障害者の性のためのワークショップグループ、さらには飛んでオランダのセックスボランティアグループや障害者の性のために補助金を出す自治体(!)などなど・・・第2章以降は正直なところ、パワーダウンしている感じ。まぁ人をフォーカスせずにその制度や仕組みに注目してるからなあ。
パワーダウン、と書いてみましたが、本書を読んでてその行間から、著者のゆらぎを感じるのですね。「なぜ取材しているのだろう」みたいな。
その答えは終章ちかくになって文中にありました。
脳性麻痺の男性と健常の女性が結婚したくだりが、いちばん今の障害者を取り巻く状況を語っており、本題はここに落ち着くな、と確信したからです。
女性「葵(結婚相手の男性)にはみんなが必ず『よかったね』って言うんです。何が良かったんだよって思う。私に対してはきまって『えらいね』って。別にえらくないのに」
男性「障害者が街をぉ歩いているだけで、おばさんとかに『ご苦労さぁま』と言われる。心の中では『お前もぉだ』って思うけどぉ」
人として生きている事には変わりないのに、その人と自分が何かが違うだけで、僕らは判断しがち。
人々の顔に差があるのと同じく、障害のある人とない人がいる。実はただそれだけの事なんだよね。性の問題はそれに付随するだけの話、だとうことに気づかされました。そしてそれは著者も同じようで、結論が性だけに執着しなかったことに安堵したのです。まず声を上げるところはそこなんだよ!とね。
そういう意味では、前に読んだ「こんな夜更けにバナナかよ」とどうしても比較してしまうね。
http://www.esbooks.co.jp/books/detail?accd=31104711
そういう意味では、好き嫌いがハッキリ分かれるめずらしいノンフィクションかもしれません。ぜひ読んで、あなたの目で確かめてください。