「全国アホ・バカ分布考」の何がすごいって、

 人気テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」に届けられた1枚のハガキ。
 「大阪出身の自分と、東京出身の妻が喧嘩をすると「バカ」「アホ」とそれぞれ慣れない言葉で言われるため、お互い傷つきます。果たして東京と大阪の間に「バカ」と「アホ」の境界線があるのではないでしょうか。調べてください」というもの。

 東京から新幹線を使って西へと向かい、途中駅で一般の人に聞いてみる。東京はもちろん「バカ」。ところが意外な言葉が名古屋で飛び出した。名古屋では「タワケ」を使う人がいたのだ!しかし新幹線も滋賀に入ると「アホ」になり、結局関ヶ原付近で「アホ」と「タワケ」の境界線があった、という結論になった。

 このことがスタジオで意外な展開になる。「まだ「タワケ」と「アホ」の境界線が見つかってないぞ」「九州では「バカ」って言いますよ」「えっ!?東にあるはずの「バカ」が西にもある?!」
 そしてテレビを見た視聴者から、ぞくぞくと地元の「アホ・バカ」に相当する言葉が集まってくる。
 「ホッコ」(香川)、「ダラ」(富山)、「ハンカクサイ」(北海道・青森)、「フラフージ」(沖縄)・・・
 大きな企画になると予感した松本氏は、全国の市区町村にアンケートを出し「アホ・バカ」に相当する言葉を集めて調べたのだ。すると・・・

 昭和初期の民俗学者柳田国男が考証した「蝸牛考」があてはまるではないか!

 「蝸牛考」とは、呼び方がたくさんある言葉の分布は、京都を中心にして同心円状に広がっている、というものだ。この考えの基になる「蝸牛」とはいわゆるカタツムリのことで、京都を中心にした関西では「デンデンムシ」と呼ぶし、その外縁の東海地方、中国地方あたりでは「マイマイ」と呼び、さらにその周縁、特に関東では「カタツムリ」と呼び、さらに九州の一部や東北地方では「ナメクジ」と呼ぶ。
 つまり昔から文化の都だった京都でカタツムリのこと古い昔は「ナメクジ」と呼び、それが広まった頃新しい名前の「カタツムリ」が京都で流行し地方にも広がり、同様に「マイマイ」、「デンデンムシ」が広がる、というもの。
 京都を中心に言葉が同心円状に広がっているのだ。

 詳細は本に任せるとして、「アホ・バカ」はそれと同じく科学的な分布を証明することができたのだ!

 一つの言葉から導かれる、歴史のロマン。奥深さを感じずにいられません。