ボクシングは死ぬことと見つけたり?

a2c_sato2004-08-29

 今日は川口でライブ本番!どうなることやら。でもその前に本を紹介させてね。オモロかったから。

「平成兵法心持。 新開ジムボクシング物語」(高橋秀実・中公文庫)
http://esbooks.yahoo.co.jp/books/detail?accd=31364429
 著者はフリーマガジン「R25」で毎週巻末コラムを書くなど、活躍の場が広がっているオイラのフェイバリット作家・高橋氏。しかし彼の著作は少なく読みたくとも読めなかったのですが、過去に刊行した「ゴングまであと30秒」(草思社)の文庫版の改題、多少書き直した内容になったのが最近発売になり、喜び勇んで買ったのさっ。文庫版の解説をこれまたオイラのフェイバリット作家、斎藤美奈子女史が書いているのも注目すべきところ。
 著者の高橋氏は過去に、川崎市にあるボクシングの新開ジムでトレーナーをやっており、その時期に体験したことを当事者でありながら、常に第三者の視点で書いてます。ボクシング作品といえば「ハングリー精神で1秒に賭ける、瞬間に命を捧げた男たちの物語」みたいな、スポーツノンフィクションだったらまだ救いはあるのだけど、やっぱり、というべきか、オイラの好む「軸のない」ノンフィクションになってます。解説の斎藤女史の言葉を借りれば「彼の作品には、カラスがカーと鳴いている雰囲気があるのだ」ということ。

 ボクサーを目指そうとしたが、視力の悪さがバレてしまい試合にも出ず引退してしまった、ボクサーにもなれなかったトレーナー(著者)をはじめ、元フライ級全日本ランキング9位の経歴を持ち宮本武蔵をこよなく愛す新開会長、世界に通用するプロを目指す、といっても練習をサボる、手を抜く、言い訳をするばかりの練習生たち(「3日続けて休んだらジムをクビだ」と言われたら、2日休んで1日来る)。かと思えば他のジムも似たりよったり。遅刻や欠席を叱らず会員数だけはしっかり増やして月謝を確保するジムだったり、4回戦ボーイの弱い選手同士の試合を交渉する他のジムの会長(←これはどこのジムでもやってる慣例みたいなものらしい)、自分から手を出さない覇気の見えない高校生部活ボクサーとそれを嘆く高校の顧問。どうやらアリスの「チャンピョン」や「はじめの一歩」の世界はカラオケボックスのビデオの中だけであるよう。
 著者はボクシング経験者に訊いてみる。「ボクサーは何が一番大切なんでしょうね」。
 「生まれつきやろ」
 「運でしょ」
 「やっぱ精神論や・・・武蔵やな」
 とわいえ、ストーリーは新開ジムのなかでも(いちおう)まともなボクサー東岡の試合に向けられます(でも試合会場は後楽園ホールじゃなくて弘前市民会館。やっぱりズッこけるよね)

 日々日常ってそんなにドラマティックじゃない。栄光を手にできるのはごく一部の人間だということも実は知っている。だからこそ平凡な彼らがボクシングジムに通い、イマドキじゃない新開会長の下でブー垂れながらも、「何か」を得るため「その日」のために向かっている。そして日常は続く。

 今活躍する高橋氏の原形が書かれてます。今度はオイラ既読で最近の彼の著作を紹介するね。