安心と便利はコスト意識を持って損はない!

a2c_sato2004-09-03

 ダカーポ永江朗さんが絶賛していたもので、さっそく明治大学売店で購入!(何故大学生協?!)
「安心のファシズム」(岩波新書斎藤貴男
 http://www.esbooks.co.jp/books/detail?accd=31405553
 例えば好きな彼氏から「君を守ってあげるよ」なんて言われたら「ステキー!」だろうけど、好きでもないブ男に言われたなら「けっ、うぜーあっちいけよ」と思うのが人間の性。今年11月に完全施行される「個人情報保護法案」これについてどう思うかは、前の例えに近いものがあるかもね。

 著者の斎藤氏フリーの記者を経て、今は個人情報の国による情報コントロールや、新たな階層化に警鐘を鳴らす作家で、オイラも過去にこういう本を読了しとります。どっちもおもしろかった。
カルト資本主義
 http://www.esbooks.co.jp/books/detail?accd=30686481
「機会不平等」
 http://www.esbooks.co.jp/books/detail?accd=30763397
 タイトルでだいたい感じはつかめるでしょ?

 今回の著作では、なぜ携帯電話やJR東日本に代表される「suica」を、人は積極的に持ちたがるのか、というところから話が始まります。しかし、というかやっぱり、というか。その心性を解き明かすというよりも、それが国家の情報保護ネットワークに収斂され、社会の階層化をさらに高めるという話になっていきます。
 斎藤氏の話はどれもまっとうで、ジャーナリズムとしても優秀な内容ばかりだと思うのだけど、どこか息苦しさを感じてしまうんですよ。すべてのテーマが「国家の強制」や「社会ダーウィニズム」に収斂していくようで。
 携帯電話にしても、「繋がっている意識というのは、結局NTTや国家と繋がり、管理下におかれる現実」という書き方になる。それはそのとおりで、正論であるとしか言いようがないんだけど、じゃあ国や企業から独立した携帯やインターネットが成立するのかと言えば、おそらくそれはほぼ不可能。
 そもそもオイラが携帯を買った理由は、女の子の電話番号を聞くため!それ以上の理由はなかったんです、ハイ。よーするにスケベ心ですよ(←開き直った)。斎藤氏の著作にはそういった「遊び心」が見当たらないんだよなぁ。それだって根拠になり得ると思うのに。
 そして携帯やsuicaを手にすることの意味を、読者に問うてるかというとそうでもないし。日垣隆ならこういうことを読者にも直接ズバット言いのけたり、間接的にほのめかしたりなどして、読んでる読者にドキッとさせるんだけど、斎藤氏はそこまで至らないんだよなぁ。読者にそれに対する処方箋を提示してないから、不安が不安であるまま終わっちゃうんだよね。もしくは国が、大企業が悪いって感じで。

 ただ、ITネットワークの広がりと、それを利用しようとする国家、これに対しては常に警戒心を持って持ちすぎることはないかな、と思います。この部分こそ「自己責任」。たとえばみだりにアンケート調査に協力しない、無料でもクレジットカード・ポイントカードをやたらと作成しない、そういう情報をくれと言われたらその根拠を相手に尋ねる、などなど。
 日本の個人情報保護法もどうかと思うけど、アメリカの9・11後5週間目に可決された「愛国者法」もひどいもんだよ。図書館の貸し借りの履歴も国が見る事ができるってんだから。「こいつは少女が主人公の本や絵本しか借りない。ロリコンの怪しいヤツだ」とかね。このへんのアメリ9・11後の息苦しさは、こないだ見た映画「華氏911」でも、マイケル・ムーアが撮ってました。

 斎藤氏を最近は多作で著作ラッシュだったけど、彼の今の活躍を知るにはいちばんの好著だね。とらえどころのない「うさんくささ」が気になる人は、ぜひとも読むべし。