人類の歴史を左右した暗号の歴史 その1

a2c_sato2004-09-06

 昨日一昨日の旅日記はどうだった?読んでる方が疲れたでしょ?(笑)。そんな道中に読了したのがこれ!
 「暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで」(サイモン・シン/著 青木薫/訳・新潮社)
 http://www.esbooks.co.jp/books/detail?accd=30862169
 いま数学ノンフィクションだと、彼を超える書き手はいないんじゃないかな。もちろん日本にも。彼の作品を読んでると、あたかも世界で最高に難しいと思われてた事を読者にもわかりやすくし、しかも技術の記述や理論の解説にとらわれず、暗号を開発する人、暗号を解読する人、それを利用する権力者・・・・さまざまな人間ドラマを壮大に感動的に書いてくれます。
 前作「フェルマーの定理」もすんごく面白かった! 参考までにレビューはこちら。中身薄いな。
 http://www2.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=173484&log=20031226
 そんなサイモン・シンの2作目を会社そばの古本屋で1500円でゲット!厚さも4cm600ページもあり、これは手強いぜと旅行移動中に読む事にしたのさっ。
 暗号?スパイ映画だけの話で私たちの生活に関係ないじゃん、なーんてお思いなさるな。すでに私たちの生活にしっかり根づいているのです。E-mailなんてその最たるもの。暗号技術のおかげで、われわれは平穏無事に会社の貴重な資料や、彼氏彼女からの愛のメッセージ、テロリズムによる政府転覆計画等々を受け取ることができるのです(一部ウソ)。しかしその暗号技術とは、われわれの想像を絶するほどの技術と歴史が蓄積しているんだね・・・

 暗号の歴史は戦争の歴史と並行しています。遠方にいる味方に戦況を伝える手段として、途中で相手に見られてしまってはいけないので、恣意的なメッセージを文字を規則的に入れ替える事が(例えばI love youなら J mpwf zpvになる。わかる?)暗号の基礎となりました。歴史記述で最も古い暗号の記述が、紀元前4000年の古代ギリシャにあったってんだから、歴史の深さと人間の業の深さを思い知らされるよ。
 暗号の仕組みは、コンピュータ技術が発達した今も昔も実は変わりません。原文があって、それを「鍵」によって「暗号文」にし(先の例でいくと鍵は「アルファベット1文字うしろの文字をとる」)その「鍵」を逆方向に「復元」することで(アルファベット1文字前をとる)「解読文」を得るのだ。
 ところがこの方法だと、多く頻出する単語や文字が特定されやすいという弱点があり、(例えば「H ZL Z EZSGDQ」という英語の暗号なら、英語でアルファベット1文字で表される単語は「I」と「a」だけだということを知っていれば、上の「H」や「Z」が「I」や「a」を表すことがわかる)しばらくは暗号解読者が有利な状況が続いた。
 15世紀にローマのアルベルティ(トレビの泉を設計した、本職は建築家)によって理論化され、16世紀にフランスのビジュネルによって完成した「ヴィジュネル暗号」。アルゴリズムを二重化することで、相手に頻出文字を悟られなくする方法を発見したのだ。そしてこの暗号はしばらく解読不能の暗号とされた。しかしそんな400年間解読不能と言われた暗号も、19世紀に登場したイギリスのバベッジ(蒸気で演算するコンピューターを歴史上初めて設計した人!)が解読法を発見したのだ。
 そして通信技術の発達。無線電信の発見は、遠方でも確実に情報を伝達可能にしたメリットと同時に、誰でも傍受可能になるというデメリットも生む事態になった。しかし戦争はそんな技術を必要とした。そして第一次世界大戦。この時にドイツ軍が使用した「ADFGVX暗号」はフランスの暗号部門によって解読され、歴史が示す結果のとおりドイツ軍の敗戦に至る事となった。特に中立国だったアメリカを第一次大戦参戦に導いた、ドイツ外相のツィンマーマン電報の傍受と英国海軍省暗号局の解読、そのメッセージのかけひきのくだりがおもしろい!(例えば、暗号を解読したからすぐさま行動に出ると「もしかしたら傍受されて暗号が解読されているかもしれない」と思われるので、そう思われないようしかしベストの方法で戦況を有利にするためには、とかね。)
 このドイツの「暗号戦争」の敗戦が、世界初の暗号機械を発明するに至った。それが最強の機械の名高い「エニグマ」である。エニグマは暗号解読の「鍵」を相手に知られても、鍵自体に規則性を生まないように設定された機械なのだ。しかも「鍵」は一回きりしか使えないようにし、例え第三者が「鍵」を手に入れてもその鍵は使えないように設定された機械である。1918年に特許を得、1926年にドイツ軍に採用され、しかも大量生産が可能、「鍵」が110391791500パターン成立するこの恐怖の暗号機械を発明したのは、ドイツ人の発明家シェルビウス。
 果たして110391791500パターン(←1京、1兆の1000倍)を克服する暗号解読法はあるのか・・・
 
 すんごく長くなったね。でもこれ全体500ページのまだ半分だから。いやーでもでも、こんなに書いちゃうくらいおもしろいんだもん。
 というわけで、明日をお楽しみに!